発達障害のお子さんの中には、発語が遅れている、つまり言葉の発達の遅れのあるお子さんがおられます。
この発達障害児の言葉の遅れの問題なのですが、この場合のお子さんの言語中枢には障害はありません。
最初にはっきり言い切ってしまいますが、言葉が話せないお子さんの脳には、障害はないのです。
ではどうしてお子さんは、言葉の発達が遅れてしまっているのでしょうか?
じつは発達障害のお子さんの多くは、相手の話している内容は聞き取れています。
ただし内容を聞き取れていたとしても、それに対して、適切に行動できず、勝手な行動をすることが多いため、周囲の大人は、指示が入らないと勝手に思い込んでいることがほとんどなのです。
言葉の発達が遅れている発達障害のお子様は、ほとんどが相手の言っていることは理解できているのに、自分の言いたいことはうまく言えない状態になっています。
これはお子さんの言葉の問題が、「聞き言葉」ではなく、「話し言葉」にあることが原因なのです。
私たちの言語機能は、「聞き言葉」と「話し言葉」に分かれています。
「聞き言葉」とは、文字通りに、相手の言っていることを聞いて理解する言語機能です。
それに対して、「話し言葉」とは、自分の言いたいことを、単語を組み合わせた文章として紡ぎ出し、それを唇や、舌や、声帯の運動として、正しく音声に変換する言語機能です。
言葉の発達の遅れている発達障害児は、この「話し言葉」による、発語の能力の発達が遅れていることがほとんどなのです。
「聞き言葉」と「話し言葉」について!
私たちの言語機能は、「聞き言葉」と「話し言葉」に分かれています。
まず私たちの脳の大脳皮質には、主に左半球に『ブローカ野』と『ウェルニッケ野』の2つの言語中枢があります。
この斜め上下に並んだ2つの言語中枢には、前側(腹側)と後側(背側)の2つの神経ネットワークがあります。
それぞれが『腹側言語経路』と『背側言語経路』と呼ばれていて、それぞれに「聞き言葉」と「話し言葉」をつかさどる働きをしています。
この『腹側言語経路』が「聞き言葉」をつかさどる言語ネットワークを作っていて、『背側言語経路』が「話し言葉」をつかさどる言語ネットワークを形成しています。
つまり「聞き言葉」がしっかりしていて、相手の言っていることが理解できている(指示に従う気があるかは別問題)場合には、ブローカ野とウェルニッケ野の2つの言語機能は正常に働いていることがわかります。
それに対して「話し言葉」がうまく働いていない原因は、この『背側言語経路』のネットワークの未発達があるために、お子さんは、言葉をうまく話せなくなっているのです。
どうして言葉が話せないのか?
では『背側言語経路』が未発達になると、どうしてお子さんは、言葉を話すことができなくなるのでしょう?
それには3つの原因が考えられています。
⒈ 背側言語経路から高次運動野へのネットワークが未発達な場合
私たちの「話し言葉」のネットワークは、ブローカ野とウェルニッケ野の2つの言語中枢を、背側言語経路で結んだネットワークから、自分の意思を言葉に紡ぎ出しています。
この背側言語ループから紡ぎ出された言葉を、皮質下ネットワークの「運動コントロールネットワーク」に乗せて、大脳基底核(レンズ核)から、視床を経由して、大脳皮質にある高次運動野の言葉を話すための運動コントロールを行う領域に、運動指令として伝えられます。
そして実際の唇の動きや、舌の動き、声帯の動きなどに変換され、私たちは言葉を話すことができるのです。
この背側言語経路から、発語のための運動コントロールネットワークにつながる経路が未発達だと、お子さんは「言いたいことがあるのに、なぜか口が動いてくれない」状態になってしまいます。
つまりこのタイプの発語の障害は、言語障害ではなく、言いたいことがあるのに、うまく言葉にできない、すなわちとても重度な口下手のような感じになっているのです。
⒉ 発語のための運動コントロールが未発達な場合
子供たちが何かをするときに、その動作には、常に上手い下手があります。
例えばお箸の使い方ひとつとっても、上手に使える子供と、握り箸になってしまう子供がいますね。
それと同じように、話し方、つまり言葉の発語の仕方にも、上手い下手があるのです。
それは舌や唇の筋肉の麻痺による「構音障害」のような障害ではなく、純粋に上手い下手の違いです。
発達障害児のお子さんには、よく『発達性協調運動症』による不器用さが認められています。
歩いていて良く転んだり、お箸がうまく使えなかったり、さまざまな動作が不器用に感じられる現象ですね。
私たちの発語も、筋肉を動かして行う、いわゆる動作ですから、上手い下手があります。
発語の遅れが認められる発達障害のお子さんの中にも、この発語の動作に発達性協調運動症が認められている場合があります。
そのためにお子さんは、呂律が回らなかったり、何を言っているのかわからない発語を行う場合があるのです。
これはあくまでも、発語動作の不器用さが原因ですから、構音障害のような麻痺や、脳の問題による言語障害ではなりません。
発語動作が下手なだけなので、正しくケアして、練習すれば、発語は上達していくのです。
⒊ 背側言語経路での言葉の紡ぎ出しがうまくできない場合
このタイプの発語の問題は、お子さんは、ある程度の発語はできていますが、言葉の順序立てがうまくできないケースです。
自分の考えを、相手に理解してもらうためには、話の内容をよく吟味して、理論的に順序立てて、正しく話す必要がありますね。
背側言語経路の働きが未発達なお子さんは、この話を理路整然と整えることができません。
つまり自分の言いたいことを、きちんと順序立てて組み立てることができず、話の内容が行ったり来たりしてしまいます。
お子さんには良くあることですが、これがある程度お子さんが成長してからも継続している場合には、背側言語経路の未発達が考えられます。
私たち大人でも、緊張した場面などでは、きちんと話の筋を整えられずに、しどろもどろになることがあります。
このタイプの発語の未発達のお子さんは、言語カードなどを利用して、言葉の順番を組み立てる練習などを行うと改善が早まります。
つまりはものすごく極度の口下手なのです!
じつは私たちの発語は、母国語を話すときと、外国語を話すときでは、使う言語経路がことなっています。
外国語を話すときには、頭の中で、ある程度、自分が話したい内容を組み立ててから、それを読み上げるように話します。
それに対して母国語である日本語を話すときには、なんとなく相手に伝えたい概念を思い浮かべると、あとは自分の口が勝手にペラペラと話を始めます。
私たちの母国語による会話は、皮質下ネットワークによって、かなり自動化されているのです。
ですから発達障害によって、皮質下ネットワークの働きが未発達になると、この発語の自動化も未発達になることがあります。
これが発達障害児の、発語の遅れの原因なのです。
お子さんたちは、相手の言っていることがわかっており、自分の言いたいことも思い浮かんでいるけれども、なぜか上手く話せない。
つまりこの子たちの母国語は、日本語ではなく「失語」になってしまっている状態なのです。
ブレインバランスセラピーによって、皮質下ネットワークの発達を促していくと、このお子さんの発語の遅れの問題も、改善されていくのです。
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