発達障害の大きな問題のひとつが『自閉的傾向』の問題です。
この『自閉的傾向』は、「自閉スペクトラム症」とも呼ばれており、そのスペクトラムとの名前の通りに、とても症状の軽重の範囲が広いのです。
たとえば、とても重い自閉には、周囲の環境や人々に対して、まったく興味を示さずに、ひたすら自分のからに閉じこもって、一人で何ごとかをゴニョゴニョをやっているようなケースがあります。
その反面で、社会的にも成功しており、バリバリと働いているのに、共感力が低くて、人の気持ちがわからないKYなために、ちょくちょく対人トラブルを起こす、ホリエモンやイーロンマスクみたいなタイプもいます。
イーロンマスクは、自分がASDの診断を受けていることをカミングアウトしているのは有名な話ですね。
この様に同じ自閉的傾向(ASD)であっても、そのレベルは様々で、まさにスペクトラムな状態です。
そこで私どもでは、この自閉的傾向(ASD)のスペクトラム状態を、わかりやすくザックリと3段階に分けてみました。
【自閉的傾向(ASD)の3段階】
レベル1: 周囲の環境や人を認識できず空間に孤立している状態
レベル2: 周囲の環境は認知しているが他者からのコマンドなどを処理できず勝手に行動する
レベル3: ある程度の社会生活をおくれているが共感力が低く対人問題などを起こしやすい状態
この3段階は、完全な分類ではなく、これらのレベルの中間点にあるようなタイプも多いのですが、これぞれの自閉的傾向(ASD)には、それぞれ異なった原因があり、その原因に基づいて分類を行っています。
ではこれらの自閉的傾向(ASD)の原因とそのタイプについて見ていきましょう。
周囲の環境や人の認知がうまくできない身体図式の未発達な自閉的傾向

まずは一番基本的な自閉的傾向(ASD)のタイプである『周囲の環境や人を認識できず空間に孤立している状態』のタイプを見ていきましょう。
このタイプの自閉的傾向(ASD)は、『身体図式の未発達』が原因となって起こっています。
この『身体図式』とは、「自己の身体に対する無意識下の理解」と定義されています。
『身体図式』は、一般的な、背が高いとか、丸顔であるとか、足が長いとか、太っているなどの、具体的な『身体イメージ』とは違います。

たとえば柿の木の下に立って、枝になっている柿の実を見上げたとき、あなたは実際に手を伸ばして見なくても、その実に手が届くかどうかがわかります。
小川の淵にたって、その川幅を見れば、それを飛び越えられるかどうかも、だいたいわかります。
段差を見て、それを跨ぎ超えられるかどうかもわかります。
それが『身体図式』の働きなのです。
そしてこの『身体図式』は「ミラーニューロンシステム」と連携して働いています。
私たちは、相手の行動を分析して理解するために、自分の脳内で、自分自身の『身体図式』を使って、相手の動作を再現し、シミュレーションしているのです。
そうすることで相手の行動の意味や、その意図をす殺することができるのです。
ですから、お子さんの『身体図式』が未発達でぼんやりしてしまっていると、相手の動作を分析することができないのです。
『身体図式』が未発達なお子さんは、周囲の人々の行動の意味が理解できず、その行動に興味を持つこともありません。
なので周囲の人が何をしていても、それに反応することなく、その空間に孤立してしまっているのです。
周囲の環境を認知していても集団に溶け込めず勝手に行動する自閉的傾向

自閉的傾向の中に、ある程度は周囲の環境に対して、自主的に行動できるものの、集団に入れずに、勝手に行動したり、集団のルールが守れないタイプの子供たちがいます。
これは、その子の『身体図式』がずっと未発達なために、それに関連するミラーニューロンシステムに関連する神経システムが未発達になってしまっているのが原因です。
そのために大脳基底核・線条体(入力系)にある、「自分の行動」と「相手の行動」を相対的に比較して分析する力が未発達になってしまっているのです。
このタイプの自閉的傾向のお子さんは、周囲の行動に忖度して、それに合わせた行動をとることができません。
ですから脳の意思決定の一番基本的な「自己の報酬を最大化する」ための意思決定を行い、周囲から浮いた行動をとったり、周囲に迷惑をかけても気にしない様になってしまうのです。
また相手の行動と自分の行動を比較して、そこから学んだり、参考にしたりすることができません。
ですから、このタイプの子供たちは、常に自分勝手に相手に対して忖度せずに、行動してしまうのです。
社会的に生活できているが共感力が低く人間関係トラブルが多い自閉的傾向

このタイプの、いわゆる比較的に軽度な自閉スペクトラムの中には、社会で大きな成功を果たしている方も少なくありません。
それどころか最近のITスタートアップの成功者のほとんどは、このタイプの自閉的傾向(ASD)があると言っても過言ではないでしょう。
たとえばアップルコンピューターの創業者であるスティーブ・ジョブス、テスラやスペースXのイーロンマスク、Amazon創業者のジェフ・ベゾス、メタ社のマーク・ザッカーバーグなど、錚々たる面子が揃っています。
彼らに共通しているのが、対人関係における共感性の低さと、それに対して圧倒的な発想力の高さです。
じつはこの特徴は、脳のミラーニューロンシステムと、私たちの想像力を司っている、いわゆる裏の脳である『デフォルトモードネットワーク』との連携の未発達が原因となって起こっています。
つまりミラーニューロンシステムで分析した相手の行動の、その時の相手の心情について、デフォルトモードネットワークが連携することで想像するのです。
裏の脳である、デフォルトモードネットワークは、私たちの想像力を司どっているからです。
しかしそのネットワークが未発達であるために、相手の心情を想像することができず、共感力が低下した状態になってしまっているのです。
その反面で、このタイプの自閉的傾向の子供には、高い創造性や発想力をもつ場合が多く認められています。
これはスティーブ・ジョブズが、iPhone を思いついたことや、ニュートンがりんごの実が木から落ちるのを見て万有引力を発見したことなどの現象です。

アインシュタインの言葉で「理論はAからBに連れて行ってくれるが、想像力はどこにでも連れて行ってくれる」と言うものがありますが、これなどはアインシュタインの相対性理論の発見が、高い発想力から思いついたことの証左でしょう。
じつはこのタイプの自閉的傾向の子供が、高い発想力をもつ原因は、はっきりとわかっています。
このタイプの子供は、いわゆる軽度の『認知的脱抑制』の状態にあるのです。
この『認知的脱抑制』とは、想像力を司る、裏の脳であるデフォルトモードネットワークの働きが、通常よりも強いことを意味しています。
一般的には、私たちの表の脳(タスクポジティブネットワーク)が、目の前のタスクを実行している場合(たとえば目の前の宿題をやっているなどの場合)、裏の脳であるデフォルトモードネットワークは、その活動を停止しています。
しかし『認知的脱抑制』が強い場合、表の脳の活動中にも、裏の脳であるデフォルトモードネットワークが活動していることがわかっています。
よく何かの遊びや作業をしていて、急に思い立った様に、周囲を見回して、何かを探し始めたりする子供がいます。
これは表の脳のタスク実行中に、裏の脳から、何らかの指示が出ており、別のことを思い浮かべているのです。
この『認知的脱抑制』は、私たちの発想力に関係しており、ハーバード大学の学生に対する研究でも、中退してIT系のスタートアップを始める学生は、普通に卒業する学生よりも、この『認知的脱抑制』の傾向が強いことがわかっています。
このように、このタイプの自閉的傾向(ASD)の子供たちは、共感力が低い反面で、高い創造性をもっていることが多いのです。
なので成功したITスタートアップの創業者には、このタイプのASDが多くいるのです。
自閉スペクトラムと身体図式

このように自閉スペクトラム症の各段階には、それぞれ異なった問題が認められていますが、その全てに『身体図式』の未発達が関係しています。
『身体図式』の働きを基礎とする、『ミラーニューロンシステム』と、それに関与するさまざまなネットワークの連携が、どのレベルで働かないのかによって、自閉スペクトラム症のレベルが決まります。
つまり自閉スペクトラム症の問題は、身体図式の未発達の影響による、神経ネットワークの未発達の段階のレベルの違いであると考えられているのです。
ブレインバランスセラピーでは、この『身体図式』の未発達を改善することで、自閉的傾向の改善を行うことができているのです。
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