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発達ケアの基礎

感覚統合不全が脳の成長を妨げる

非定型発達型のお子さんは、脳の発達にボトルネックができやすく、脳の未発達による自閉的傾向や多動傾向、認知の歪みなどの、いわゆる発達障害になりやすいことがわかっています。

ではどうして子供たちの脳が未発達になって、発達障害になるのかと言うと、その原因は『感覚統合不全』と呼ばれる現象です。

私たちの脳は、勝手に物事の考えるのではなく、あくまでも周囲の環境から得られる感覚情報に基づき、その感覚情報を分析して、周囲の環境を認知し、それに対して的確な行動を意思決定して行うための機関です。

つまり私たちの脳は、周囲からの感覚情報が入力されないと、適切に活動できないのです。

つまり私たちの脳は、周囲からの情報を分析して、それに対する答えを考え出すものだと言うとわかりやすいかもしれません。

ですから脳が健康的に働くためには、常に脳に適切な感覚情報が入力されている必要があるのです。

私たちの手足の筋肉が、適切な運動をしないで怠けていると、衰えて弱ってしまうように、脳に適切な感覚入力がされていないと、脳は成長できず、発達障害になってしまうのです。

つまり『非定型発達型』の子供たちは、生まれつきに『感覚統合不全』の状態になりやすいことが原因で、脳に適切な感覚入力がなされずに、脳が鍛えられずに未発達になり、発達障害になってしまうと言うわけなのです。

ではこの子供たちの脳に適切な感覚入力がなされなくなる『感覚統合不全』とは、いったいどういった現象なのでしょうか?

感覚統合不全とはどんなものなのか?

発達障害のケアの現場でも『感覚統合不全』の単語を耳にすることが増えてきましたね。

ではこの『感覚統合不全』とは、いったいどんな現象なのでしょうか?

感覚統合不全とは、単一の現象ではなく、お子様の感覚の発達に関する、いくつかの問題点の総称なのです。

ではそれらのいくつかの問題点を以下に挙げてみますね。

【感覚統合不全】
⒈ 原始系触覚の残存
⒉ 識別系触覚の未発達
⒊ 身体図式の未発達
⒋ 感覚鈍麻と感覚過敏
⒌ 筋肉の運動感覚の未発達

この5つが主な感覚統合不全の問題点です。

ではこの5つについて、それぞれどんな問題なのかをみていきましょう。

『原始系触覚の残存』とはなにか?

まず『原始系触覚』とはなんぞやについてお話ししたいと思います。

この『原始系触覚』とは、基本的には原始的な生物に備わった触覚であると言うことです。

たとえばイソギンチャクの触手を思い浮かべてみてください。

イソギンチャクの触手は、その触手に餌である小魚などが触れると、それを素早く捕まえます。

これを「捕捉」と言います。

また触手に自分よりも大きな天敵がふれると、素早く引っ込んで逃げます。

これを「逃避」と言います。

またライバルである別のイソギンチャクなどが近寄ると、攻撃して縄張りから追い出します。

これを「攻撃」と言います。

つまりイソギンチャクの触手には、この「捕捉」「逃避」「攻撃」の3パターンしかないのです。

これはイソギンチャクの触手には『原始系触覚』しかないため、その行動様式も原始系触覚に支配された単純な3パターンに限定されてしまうのです。

たとえばイソギンチャクを小さな子供の時から、大事に愛情をこめて育てたとしても、イソギンチャクは飼い主の手を、愛情込めて優しく撫でてくれたりはしませんね。

それはイソギンチャクの行動様式が『原始系触覚』に支配されているために、優しく撫でるとか、トントンと軽く叩くなどの複雑な動作ができないからなのです。

じつは私たち人間も、生まれたばかりの赤ちゃんの時には、この『原始系触覚』が皮膚触覚に残存しています。

ですから生まれて数ヶ月の赤ちゃんは、キャッキャと笑いながら、ママやパパの顔をペチペチ叩いたりします。

しかし成長と共に、原始系触覚が消失して、代わりに『識別系触覚』が発達してくると、子供は相手の顔や頭を優しく撫でることができる様になるのです。

そして非定型発達型の子供の中には、この『原始系触覚』が、大きくなっても残存してしまっている子供たちがいます。

この『原始系触覚』が残存している子供は、その行動様式が原始系触覚に支配されてしまっていますから、その動作も「強く雑につかむ」「叩く」「雑に投げる」などの行動をとってしまうのです。

よく発達障害の子供たちの中に、『お友達を叩いてしまう子供』がいます。

この子たちは、決して暴力的な性格をしているわけではありません。

手の運動が原始系触覚に支配されているために、なにかしら相手にスキンシップをとろうとすると、乱暴にバシバシ叩いてしまうのです。

その証拠に、その相手を叩いている子供は、決して怒っているわけではなく、けっこう笑顔で相手を叩いていたりします。

この『原始系触覚の残存』している子供たちは、相手を攻撃する意図はないのに、そんな粗雑な手の動きしかできない子供たちなのです。

また発達障害の子供たちに、「抱きにくい子供」がいます。

これはママやパパが、愛情を込めて抱っこしていても、当の子供は、背筋を緊張させてピーンとなってしまって、相手に体を預けることができず、抱きにくくなってしまっているのです。

これは子供の体幹に原始系触覚が残存していることで、子供たちはママやパパに抱っこされているにもかかわらず、なにか天敵や怖い相手に捕まえられた様に反応してしまっているのです。

さらにママやパパと手を繋げない子供も、手に原始系触覚が残っており、つかまれた手が、まるでなにかに捕らえられているいる様に感じてしまっているのです。

こう言った子供たちは、単に相手を叩いてしまう問題だけではなく、『愛着行動』の未発達による『愛着障害』になってしまうのも問題なのです。

そして手足や体幹の皮膚触覚に『原始系触覚』が残存していると、その子の『識別系触覚』が未発達になってしまうのです。

識別系触覚の未発達とはなにか?

『感覚統合不全』の2つ目の問題点が『識別系触覚の未発達』になります。

この『識別系触覚』とはなにかと言えば、それは私たち人など、高等生物に備わった、高度な皮膚の触覚です。

『識別系触覚』が発達していることで、私たちは指先の微妙なタッチの調節や、細かな手の動きなどを制御することができるのです。

また相手から触られたときに、相手が強く押してきたり、優しく撫でてきたり、からかってツンツンしてきたりと言った微妙な感覚の違いも理解することができます。

『識別系触覚』は、私たちが細かな作業をしたり、相手とのコミュニケーションを円滑にするために、人にそなわった高度な皮膚触覚なのです。

そして『識別系触覚』が未発達だと、相手とのコミュニケーションにおいて、大きな問題が起こってきます。

たとえばお友達が、後ろから、あなたの肩を叩いたとします。

一般的には、その叩き方によって、相手の気持ちや意図が、叩かれたあなたに伝わります。

怒ってドンと強く叩いたのか、合図を送るためにトントンと軽く叩いたのか、からかってパシっと素早く叩いたのか。

相手は自分の気持ちを、その叩き方に込めて、あなたに伝えようとしているのです。

お友達が、あなたの後ろから、ちょっとあなたをビックリさせようと、パシっと叩いて逃げたとき、普通であれば、相手の意図を感じて、親しみを込めて、からかわれたと理解できますが、識別系触覚が未発達だと、相手から叩かれたら、どんな場合でも『攻撃』と感じてしまうのです。

それはとてもストレスを感じやすい状況ですね。

識別系触覚が未発達だと、周囲の人とのスキンシップなどの、いわゆる非言語コミュニケーションにおいて、とてもストレスを感じやすくなってしまうのです。

また相手との信頼関係を築く上でも、大きなハンディキャップとなってしまいます。

『身体図式の未発達』は自閉的傾向の原因です

ここで『身体図式』について、少し説明をしておきたいと思います。

この『身体図式』とは、皆さんが一般的に思い浮かべるであろう『身体イメージ』とは、少し違っています。

一般的な『身体イメージ』とは、背が高いとか、顔が丸いとか、髪の毛が長いとか、太っているとか、痩せているなどの、いわゆる外見に対する具体的なイメージです。

それに対して『身体図式』は、「自己の身体に対する無意識下の理解」と定義されています。

ちょっとわかりにくいですね。

たとえば、あなたが柿の木の下に立って、その枝になっている柿の実を見上げたとします。

あなたは実際に手を伸ばしてみなくても、その実に手が届くかどうかが、見ただけで、だいたいわかります。

小川の淵に立って、その川幅を見ただけで、それを飛び越えられるかどうかも、見ただけでわかります。

ガードレールの高さを見ただけで、それを跨ぎこえることができるかどうかも、だいたいわかります。

これが『身体図式』の働きです。

ですので『身体図式』が未発達だと、子供たちは身体の動かし方を上手に習得できず、いわゆる『発達性協調運動症』と呼ばれる、とても不器用な状態になってしまいます。

歩いていて良く転ぶとか、お箸がうまく持てないとか、ボタンの留め外しが出来ない、などの問題がよく見受けられますね。

またこの『身体図式』はミラーニューロンシステムと連携しており、相手の動作を分析して、その意図を理解することにも使われています。

このミラーニューロンシステムとは、真似っこニューロンとも呼ばれており、相手の動作を模倣したり、相手の動作の意図を理解したり、相手の行動からなにかを学んだりするための神経ネットワークシステムなのです。

私たちは相手の動きを分析するときに、自分の脳内で、自分の身体図式を、相手の動作と同じ様に動かしてシミュレーションを行います。

そうすることで相手の動作を模倣したり、相手の動作の意図を理解したり、相手の気持ちを想像したりすることができるのです。

ですから『身体図式』が未発達だと、相手の行動の意味がわからずに、正しく反応できなくなります。

これがいわゆる『自閉的傾向』の原因となっているのです。

またその行動をしている、相手の気持ちを想像することもできなくなりますので、いわゆる空気が読めない、KYな状態にもなります。

これも軽度の自閉的傾向の特徴ですね。

自閉的傾向のあるお子さんが、周囲の子供たちと仲良く遊べないのは、相手を拒絶しているのではなく、『身体図式』が未発達なために、ミラーニューロンシステムが働かずに、相手の行動の意図が理解できず、その行動に興味や親近感を持てないのが原因なのです。

感覚鈍麻と感覚過敏による認知の歪みの問題

発達障害の問題の中には、『感覚鈍麻』と『感覚過敏』の問題もあります。

一般的に発達障害の問題となると、自閉的傾向や多動傾向などの、育てにくさや扱いにくさが問題となる、いわゆる扱いが面倒な問題ばかりがクローズアップされています。

しかしこの『感覚鈍麻』や『感覚過敏』の問題は、認知の歪みなどの問題を引き起こします。

これらの認知の歪みによる問題は、いわゆる子供たちの「生きづらさ」の原因となります。

これは親御さんや先生が直面する、自閉や多動による「育てづらさ」よりも、気づかれにくいため、比較的に放置されてしまうことが多く、その結果として、少し大きくなってからの『不登校』などの問題となって現れてくることが多い、厄介な問題なのです。

ではこの『認知の歪み』による問題には、どんなものがあるのでしょうか?

いくつか代表的なものを具体的に解説していきますね。

⒈ 白黒思考

この『白黒思考』とは、物事を白か黒かで判断し、その中間のグレーゾーンがない思考パターンのことです。

私たちが人生を生きる場合には、成功か失敗かの2極ではなく、成功でも失敗でもない、いわゆるグレーゾーンをゆらゆらと生きていくことが多いのですが、『白黒思考』がある場合には、それができないために、人生がとてもハードモードになります。

『白黒思考』をもつお子さんは、物事を「成功か失敗か」「味方か敵か」「好きか嫌いか」「楽しいか辛いか」の極端な2極でとらえて感情もそれに支配されます。

ですからほんの些細な失敗を大失敗と感じて、すぐに泣いたり取り乱したりします。

また些細な失敗を恐れて、常に不安を感じていたりするのです。

また学校の教室は、一般の子どもにとって、好きでも嫌いでもない場所ですが、白黒思考の子供にとっては、そこにいるのが嫌いな場所、辛い場所になってしまうことが多いのです。

それが原因となって、教室に入ると、辛い感情が湧き起こって、教室にいることができないと言う、不登校の状態になってしまうことが多いのです。

⒉ キャラクター嫌悪とシチュエーション嫌悪

認知の歪んでいるお子さんに、よく見られるのが、『キャラクター嫌悪』と『シチュエーション嫌悪』です。

たとえばアンパンマンやバイキンマンは好きなのに、そのアニメに出てくるたくさんのキャラクターの中で、特定のキャラクターを見ると、恐怖感や不快感を感じてしまい、画面を見ることができなくなったりします。

普通に見て、とても可愛いキャラクターなのに、どうしても心が拒絶してしまうのです。

これが『キャラクター嫌悪』ですね。

また家のトイレには入れるのに、デパートのトイレには、怖くて入れないなどの『シチュエーション嫌悪』があります。

またこの『シチュエーション嫌悪』には、2人くらいまでの人数のお友達とは、楽しく遊べるのに、5人以上の集団になると、なぜか怖くなって、その集団の中に入れないなどの問題が起きたりします。

この場合には、最初はお友達と2人で楽しく遊んでいたのに、後からお友達がどんどんやってきて、グループの人数が増えると、その集団にいることができなくなり、そっと一人で離れて帰ってきてしまったりします。

この様に『認知の歪み』は、そのお子さんの生活を、とても生きづらいものにしてしまうのです。

筋肉の運動感覚の未発達

私たちの感覚は、これまで五感と呼ばれ、「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」の5つが挙げられてきましたが、最近では6つ目の感覚として「筋肉の運動感覚(筋固有受容感覚)」が加えられて、六感になっています。

この筋肉の運動感覚である『筋固有受容感覚』が未発達だと、私たちの脳は、手足の筋肉をキチンとコントロールすることができなくなります。

その原因は、筋肉からの感覚フィードバックがうまく行かなくなることで、筋肉の緊張をコントロールすることが難しくなるからです。

これが原因となって、お子さんたちは、運動が苦手になり、不器用になったり、姿勢が悪くなったりします。

小学校などでは、姿勢が悪いだけで、やる気がないと判断されて怒られたりしますが、本人は自分の姿勢が悪いことにすら気づいていないのが本当なのです。

これで先生から目をつけられて、注意されるのでは、お子さんもかわいそうと言うものです。

また背骨の両脇にある『脊柱起立筋群』の緊張が高まることで、その隣にある『交感神経』が刺激されて、自律神経系が乱されたりするのです。

発達障害のお子さんの中に、よく汗をかいたり、手汗が酷かったりするのは、これが主な原因なのです。

自律神経系が乱れることで、睡眠のリズムが乱れたり、鼻腔内のアレルギーによって、軽度の体調不良を繰り返したりする場合が多いのです。

これらの問題も、お子さんが人生を生きていく上での、結構なハンディキャップになっています。

感覚情報の質や量の低下が皮質下ネットワークの問題になる

これら5つの感覚統合不全の問題によって、子供たちの脳に、適切な感覚情報が入力されないことで、子供たちの脳は適切に鍛えられなくなります。

それが原因となって、脳の全体的な働きをコントロールしている、『皮質下ネットワーク』の働きが未発達になります。

それが原因となり、脳の働きがうまくいかなくなることで、脳は発達障害になるのです。

次回は、この『皮質下ネットワークの未発達』の問題について解説していきます。

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