発達障害になりやすい子供として『非定型発達型』のお子様がおられます。
この『非定型発達型』と呼ばれるお子様は、いったいどう言ったタイプの子供たちなのでしょうか?
じつはこの『非定型発達型』のお子様たちの脳には、解剖学的な障害は認められないことがほとんどです。
最近の脳科学の発達にともなってわかってきたことは、発達障害になるお子さんの脳には、いわゆる一定の脳の活動における特徴が認められているものの、脳の機能自体には大きな障害は認められていないのです。
つまり発達障害は、個性の極端なものであると言えるのです。
これは『ボクセルベースドモルフォメトリ』と呼ばれる、高解像度のMRIを用いて、自閉的傾向(ASD)のあるお子様の脳の成長を継続的に調査した研究によって明らかにされています。
ではこの発達障害になりやすい、『非定型発達型』のお子様の特徴(個性)とは、いったいどんなものなのでしょう?
一般的にお子様の発達型は ① 定型発達型 と ② 非定型発達型 の2つに分けられます。
私たちの脳の働きは、それまでの両親や、祖父母や、それ以前のご先祖さまたちが、どの様な環境で、どの様に生活していたかによって、その環境や生活様式に最適化されるように調整されて生まれてきます。
農耕民族の脳をもつ定型発達型の子供たち

これまで私たちの社会は、何千年もの間、農耕社会を営んできています。
ナイル文明やインダス文明、中国の黄河文明など、大きな大河に沿って文明が発達してきたのは、それが農耕のための水を得るために最適な環境だったからですね。
つまり ① 定型発達型 のお子様の脳は、それまでの数千年にわたる農耕社会に適応して生まれてきています。
農耕社会とは、春には畑に種をまき、夏には作物に水やりと肥料を与え、秋に収穫して、冬には農具の手入れをすると言った、いわゆるルーティンワークを行う生活スタイルです。
そして農業を行うには、大勢で力を合わせて共同作業をするために、村落共同体の働きがとても大切になります。
ですから定型発達型の人々は、周囲の仲間に、自分がどう見られているかを、とても気にします。
そしてその村落共同体の中で、お互いに序列争いを行います。
つまり誰が村祭りの仕切りをするのか?
誰が村長にふさわしいのか?
それらをお互いに小競り合いをしながら、なんとなくの集団の序列を作り、それに従って、みんなで力を合わせながら生活を送っていくのが『定型発達型』のスタイルなのです。
つまりわかりやすく言えば、定型発達型とは、犬の様に集団で生活する生き物なのです。
狩猟民族の脳が復活したと言われている非定型発達型の子供たち

しかし農耕民族型で、ルーティンワークや村の掟に強く縛られてしまう定型発達型だけでは、世の中が硬直化して、物事に発展性がなくなってしまいます。
そこでその硬直化した社会に、新たなアイデアを吹き込んで、物事の革新をもたらす存在が必要になってきます。
それが② 非定型発達型 の子供たちなのです。
そして『非定型発達型』の子供たちは、大昔の「狩猟民族」の脳が復活したのではないかと言われています。
いわば『定型発達型』が集団で行動する、犬の子みたいな子供であれば、『非定型発達型』の子供は、単独で狩りをする山猫や豹みたいな子供なのです。
つまりルーティンワークを好み、集団の掟を強化するタイプの『定型発達型』の人々だけでは、組織が硬直化して、発展性が乏しくなってしまうため、『非定型発達型』を適度に混ぜることで、集団の柔軟性を高め、環境変化などに対応しやすくしているのです。
こうすることで、その集団は、さまざまなアクシデントなどに対して適応力が増して、滅亡しにくくなります。
これを『脳の多様性(ブレインダイバーシティ)』と呼んでいます。
これまでの人類の歴史の上でも、この非定型発達型ではなかったかと思われる偉人は、けっこうたくさんおられます。

例えば音楽家であればモーツァルトが有名ですね。
科学者であれば相対性理論のアインシュタインあたりでしょうか。
日本の歴史上で見てみると、戦国武将の織田信長や黒田官兵衛などが挙げられます。
また現代社会で見てみると、IT関連のスタートアップの成功者には、この非定型発達型がごろごろ見受けられます。

アップルコンピュータの創業者のスティーブ・ジョブズ、スペースXやテスラのイーロン・マスク、Amazonの創業者のジェフ・ベゾス、メタ社のマーク・ザッカーバーグなど錚々たるメンバーが揃っています。
じつは近年のインターネット情報社会の変化によって、この非定型発達型の子供が生まれる率が高まってきているのです。
それは私たち人類が、その生活環境の変化に合わせて、遺伝子の転写調節をおこなって、その新しい環境に適応した子供が生まれてくる仕組みからすれば当然のことだと思われます。
これまでの規則正しいルーティーンワークによる農業社会に対して、急速に変化して、個性的なアイデアが尊重される情報経済社会では、子供たちに求められている資質が大きく異なります。
じつは統計データ上でも、インターネット社会になってからの非定型発達型の子供が生まれてくる比率が、急上昇していることがわかっています。
つまり近年みなさんが感じていた、発達障害によって自閉傾向や多動傾向のある子供が増えてきており、また不登校などの問題のある子供が増えているのではないかと言う印象は、このインターネットの発達による情報経済社会への変化が大きな原因ではないかと考えられているのです。
ではなぜこの『非定型発達型』の子供は、自閉的傾向や多動傾向、認知の歪みや限局性学習障害などの発達障害による問題が起こりやすいのでしょうか?
進化のために脳の発達にボトルネックができやすい現代の非定型発達型

ここで一般的な『定型発達型』の赤ちゃんの成長について考えてみたいと思います。
一般的な人の赤ちゃんは、生まれてすぐには、目も見えず、手足も自分では動かせず、首も座らずに、自力ではオッパイを飲むこともできません。
それに対して、猿の赤ちゃんは、生まれてすぐに、目が見えており、手足も自分で動かせて、自力でママにつかまってオッパイを飲むことができるのです。
もし猿の赤ちゃんが、生まれてすぐに目も見えず、手足も動かせずに、ただ泣いているだけだったら、その猿の赤ちゃんには、何らかの障害があると考えられます。
つまり猿から見たら、人間の赤ちゃんは障害児なのです。
猿から類人猿、そして原人から現代人へと進化していく過程で、わたしたちの赤ちゃんは、猿や類人猿からみたら、障害児として生まれてくる様になったのです。
その原因は、わたしたちの脳の大きさにあります。
猿やゴリラなどの脳は300g程度で生まれ、そのまま一生300gから大きくなることはありません。
それに対してわたしたち現代人の脳は、400gの大きさで生まれ、およそ10歳までに4倍の1600gまで成長します。
その理由としては、わたしたちの赤ちゃんが、母親の産道を通るには、400gの脳の大きさが限界で、それ以上に大きな脳では、産道を通って生まれてくることができないからです。
ですから現代人は、未成熟な400gの脳で生まれてきて、その後に10年の時間をかけて、生まれてから脳を成長させる戦略をとったのです。
わたしたち人類の進化の歴史は、つまりはより賢くなるために脳を大きくしていった歴史です。
そのためにより未成熟な脳で生まれてくる様になり、生まれたばかりの赤ちゃんは、目も見えず、手足も動かせない、本当に手のかかる障害児になってしまったのです。
じつは近年の研究で、自閉的傾向になる子供たちは、生後6ヶ月から2歳までの間に、定型発達型の子供たちよりも、脳が大きく成長することがわかってきています。
しかしその子の発達障害が継続すると、成人までには普通の脳のサイズに戻ってしまうのです。
つまり発達障害が継続すると、脳が成長し損ねるわけです。
そうなのです。
つまり現代の『非定型発達型』の子供たちは、インターネットによる情報量が莫大に増えた情報経済社会で、より有利に活動するために、より脳を大きく成長させるため、より未成熟な脳で生まれてきており、そのために脳の成長にボトルネックができやすく、発達障害になりやすい子供たちなのです。
つまりこんな感じです。
① 猿・類人猿の子供: 生まれてすぐに自力でオッパイを飲めて手のかからない子供
② 一般的な子供(定型発達型): 生まれてすぐに自力でオッパイを飲めず成長には大人の手がかかるが脳は勝手に成長する子供
③ 非定型発達型の子供: 脳を成長させるために専門家によるサポートを必要とする手のかかる子供
こんな感じですね。
非定型発達型って成長するとどんな子供になる

ではこの『非定型発達型』の子供の脳を正しくケアして、キチンと発達させてやれば、それだけでいいのかと言うと、じつはそうではありません。
『非定型発達型』の子供は、言うなれば単独で狩りをする山猫や豹みたいな子供なのです。
ですからそのまま素直に成長させても、多くの場合には、聞き分けの良い犬の子みたいにはなりません。
たとえば一般的な子供は、親御さんから指示されたら、まずは大人しく言うことを聞こうとします。
それが正しいことだと、脳の基本的な部分にプログラムされているからです。
もしお子さんが親御さんの言うことを聞かずに、反抗している場合には、本人にも「自分はいまママの言うことに逆らっている悪い子だ」と言う自覚があります。
それに対して『非定型発達型』の子供たちの脳の基本的な部分には、何よりも「自分の意志によって行動することが正しい」と言うプログラミングがされているのです。
ですから『非定型発達型』の子供たちの頭の中では、「ママ大好き、パパ大好き、先生も大好き、でもあなた達の言うことは聞きません。なぜなら私には自分の意見があって、それに従って行動することは大切なことだからです」と言う考えがあるからです。
ですから、この子たちは、ママの言うことを聞かずに、勝手に行動していても、自分には反抗している意識はなく、それどころか、自分は素直ないい子だと認識していると言う、驚愕の事実があるのです。
ですから山猫のように自分勝手な非定型発達型の子供を、素直なトイプードルみたいな子供に育てるために、私どもは『マインドアウェルネスアプローチ』と呼ばれる、ABA(認知行動療法)を強化したようなケア方法をおこなっています。
つまり山猫で生まれてきた非定型発達型のお子さんを、後天的に、いわばフランス料理のテーブルマナーを身につけさせるような具合に、素直な犬の子に育てるアプローチをおこなっています。
この様に、非定型発達型のお子さんは、放っておけば、脳が未発達になって、自閉的傾向や多動傾向などの発達障害になり、運よく成長しても、そのままでは山猫みたいに面倒な大人になりやすい、とても厄介な子供達なのです。
しかしその反面で、キチンと育てることができれば、とても賢く、発想力も豊かで、自力で起業したり、新しい分野を切り開いたりする能力の高い大人に成長する可能性を秘めた子供達なのです。
ある研究では、一般の定型発達型が起業した場合には、その企業が10年続く確率は10%程度ですが、非定型発達型が起業した場合には、その企業が10年後も存続している確率は70%弱にまで跳ね上がるそうです。
つまり非定型発達型のお子さんは、放っておけば発達障害になりやすく、いい子に育てるにも、とても手がかかりますが、うまく成長すれば一発が期待できる、いわば『ハイ苦労 ハイリターン型』の子供達なのです。
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